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017 健太郎に幸あれ

last update تاريخ النشر: 2026-03-10 18:00:01

雄介が拳を握り締め、わなわなと肩を震わせた。

レースでよく見えないが、泣いている様に見えた。

そしてしばらくすると天を仰ぎ、藤原への思いを断ち切る様に笑い出した。

「あっはっはっはっ!」

虚しい笑い声が、室内に響く。

「分かりました……僕には……僕には友達なんかいなかったと言う事ですね……じゃあ僕は何ら遠慮する事なく、この力を持って世界の頂点に登ります……やはり頂点は一人なんですね……

まずは健太郎さん、あなたです……あなたには最高の舞台を用意しましょう……直美さんっ!」

「何……直美ちゃん、やと……」

雄介の声にバスルームの扉が開き、中から直美がゆらりと姿を現した。

「直美ちゃん……無事やったんかえっ!」

「待て健」

身を乗り出して叫ぶ健太郎を、藤原が制した。

「よお見てみい、目が死んどる」

「な、直美ちゃん……」

「彼女はもう、僕の忠実な下僕です。彼女の能力は素晴らしい物です。石像にしてしまうには余りにも惜しい、そう思いましてね。彼女にはその姿のまま、僕の番犬になってもらったんです。

さあ直美さん! まずは健太郎さんを殺して下さい!」

その声に、直美の肩がピクリと動いた。

そしてゆっくり健太郎を見据えると、一気に突進してきた。

「うおおおおおおおおおおおっ!」

防御する間もなかった。

直美の肘が、健太郎の顔面を捉えた。

「ぶっ……!」

健太郎が血を吹く。

頬骨が砕け鼻が折れた。

続いて蹴りがあばらが砕く。

リミッターの外れた直美の一発一発が、健太郎の肉体を破壊していった。

「な、直美ちゃん……頼むから、お願いやから正気に戻ってくれや!」

健太郎が叫ぶ。

しかし直美の攻撃は止まらない。

健太郎が右ストレートを放つがあっさり掴まれ、足を払われた。

「ぐっ……直美ちゃん、勘弁してくれやっ!」

馬乗りになろうとした直美に、ショットガンを向けた健太郎が叫んだ。

ボンッ!

ショットガンが火を噴く。

その瞬間、直美の左手が素早く動いた。

「げっ……ん、んなアホな……」

ニタリと笑った直美が手を広げると、手のひらから散弾がボロボロと落ちた。

「や……やっぱし直美ちゃんは半端な人間とちゃう……」

健太郎が仰向けのまま後退る。

直美は立ち上がり、ゆっくりと間合いを詰めてくる。

「さて……」

二人の戦いを見ていた雄介が、藤原に視線を移した。

「あなたのお相手は僕ですよ、藤原君……あなたは僕の中に残る最後の人間性です……僕はあなたを殺す事で、人間を超えます……」

雄介がゆっくりとレースを取った。藤原が慌てて安眠マスクをする。

「じわじわと……なぶり殺してやるっ!」

雄介が目を見開いた。

すると、視線の先にあった物が粉々に砕けた。

「くっ……こ、こんガキ……!」

藤原が発砲する。しかし目が見えない為、あさっての方向に弾が飛んでいく。

「ふ……ふははははははははっ!」

雄介が流れる涙を拭いもせず、高らかに笑う。

雄介の目が妖しく光った。

すると床に散乱していた無数のコードが、まるで生きている様に動き出し、床はまるでウオーターベッドのように波打った。

足を取られて転倒した藤原に、コードが襲い掛かる。

「くっ……」

藤原がグロックを捨て、腰に差していたダブルエッヂのナイフを抜き、当たり構わず振り回して抵抗する。

その藤原に向かい、雄介の鋭い視線が襲いかかる。

「ふんっ!」

「ぐっ……」

藤原の左肩が血にまみれた。藤原が吠える。

「ええ加減にさらせよこのクソダコ!」

ボンッ!

銃声が響いた。

「ぐえっ!」

撃った一発に、藤原が確かな手応えを感じた。

そして同時に聞こえたうめき声に、藤原がニタリと笑った。

「当たったか……コツがつかめてきたぞ!」

「違う!」

健太郎の声が響いた。

「今お前が撃った弾は、俺の脚に当たったんじゃこんボケッ!」

「何、健に当たったんかい」

「ふはははははははっ!」

雄介の嘲笑が部屋中に響いた。

* * *

一方その健太郎は、直美のサンドバッグと化していた。

コードによって両手の自由が奪われた健太郎は、ただひたすらに殴られ続けていた。

意識が朦朧としてきた健太郎。

その彼が、最後の力を振り絞り、拳を握り締めて吠えた。

「ぐおおおおおおおおおっ!」

コードがぶちぶちとちぎれる。

何とか腕の自由を取り戻した健太郎は、ポケットから取り出したジッポを手に、藤原に向って大声で叫んだ。

「藤原っ! 涼子ちゃんを頼むぞっ! 絶対幸せにしてくれやっ!」

そう言って直美にしがみつく。

「頼むぞっ! お前の言う通り、会社までぶっ飛ばしたったんやからなっ!」

直美のエルボーが容赦なく健太郎の肩に炸裂する。鎖骨が砕ける。

「う……うおおおおおおおおっ!」

健太郎が直美にしがみついたまま、窓ガラスに向って突進した。

「あ……」

窓ガラスが粉々に砕け、健太郎と直美が13階から飛んだ。

「なぁ直美ちゃん……あんたはほんまに、ええ女やったのぉ……」

そう言うとジッポで、腹に巻かれたダイナマイトの導火線に点火した。

「直美ちゃん……あの世でも太腿、さすったるさかいにな……」

ドゴオオオオオオオオオオオッ!

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    10分後。「ええ加減にさらさんかえこのボケッ!」健太郎が藤原の後頭部を張り倒した。「ごっ……!」衝撃で目から火を出した藤原が、思わずうなる。そして静かに、大きく深呼吸すると手を挙げ、二人に言った。「すまん、ちょっとタイムや……」ポケットから煙草を取り出し、くわえて火をつける。「ふううううぅっ……」白い息を吐き、眉間に皺を寄せ、天を仰ぐ。「……よし、もう大丈夫や……いわちゃき、いや、岩崎雄介やな、分かった……」煙草を床に捨て、踏み消した。「……そやけど、岩崎雄介……そんなやつ、俺知らんぞ。訳の分からん事ぬかしやがって……それも人の事、馴れ馴れしぃ呼びくさって」「正気に戻ったかえ。そやけどちょっと待てや、その話は後や。おえ屁たれ! 先に俺が質問するっ! お前がどないして、そんな訳の分からん能力を得たんか、まずはそっからや! さあ、答えたらんかえっ!」健太郎が雄介にショットガンを向けて吠えた。健太郎の問いに、思考が停止していた雄介もようやく我に帰った。「……い、いいでしょう&

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    銃を構えた藤原が、部屋に足を踏み入れたその時だった。「藤原、目えつむれっ! やっぱしやつはゴーゴンの力を持っとった! 顔見たら石にされてまうぞっ!」健太郎が大声で叫んだ。「……分かった」藤原が静かにうなずき目をつむり、安眠マスクをしようとした。その時だった。「藤原君! 心配しなくていいよ! 君に危害を加える様な事は絶対にしない! する訳ないじゃない! さあ、目を開けて!」雄介の狂喜する声が響いた。「何を! 騙されるかえっ!」「……大丈夫、僕は顔にレースをかけます。そうすれば石になる事はありません。健太郎さんも大丈夫ですよ、マスクを取ってください」藤原が恐る恐る、ゆっくりと目を開けた。すると雄介の言う通り、彼は顔に黒いレースをかけていた。頭にはシュルシュルと蛇が動いているのが見える。「おい健、大丈夫や。お前も目ぇ開けろ」藤原の声に、健太郎も安眠マスクをゆっくり外した。「……」藤原には、所狭しと張られている自分の写真、散乱しているコードや倒れている涼子の姿は見えなかった。彼の目に映ったもの。それはその場に転がっている、坂口の無残な生首だった。「坂口さんも……やられたんか……」「お

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    13階でドアが開いた。ショットガンを突き出しながら、健太郎が素早く左右に目を這わせた。坂口は十字架を天高く掲げ、健太郎に続く。その時、またあの声が聞こえてきた。「心配ありませんよ……ここに石像はいません……いるのは僕だけです……」「くっ……こんガキ、とことん挑発してけつかる……まあええ、行ったろやないかえっ!」健太郎が吠え、大股で藤原の部屋に向かった。声の主の言う通り、石像に遭遇する事無く、二人は藤原の部屋の前に立った。健太郎と坂口が顔を見合わせ、互いにうなずく。その時、玄関のドアが静かに開いた。「坂口さん、行きまっせ!」「分かった!」二人が同時に足を踏み入れる。「な……」健太郎が我が目を疑う。そこは既に、健太郎が知る藤原の家ではなくなっていた。バスルーム以外の壁が全てなくなっており、3LDKの部屋が大きな一室になっていた。そして至る所に、藤原の写真が所狭しと貼られていた。「な……なんじゃこの部屋は……藤原、藤原だらけやないか……あいつ、こないナルシストやったんかいな&hellip

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