LOGIN雄介が拳を握り締め、わなわなと肩を震わせた。
レースでよく見えないが、泣いている様に見えた。
そしてしばらくすると天を仰ぎ、藤原への思いを断ち切る様に笑い出した。
「あっはっはっはっ!」
虚しい笑い声が、室内に響く。
「分かりました……僕には……僕には友達なんかいなかったと言う事ですね……じゃあ僕は何ら遠慮する事なく、この力を持って世界の頂点に登ります……やはり頂点は一人なんですね……
まずは健太郎さん、あなたです……あなたには最高の舞台を用意しましょう……直美さんっ!」
「何……直美ちゃん、やと……」
雄介の声にバスルームの扉が開き、中から直美がゆらりと姿を現した。
「直美ちゃん……無事やったんかえっ!」
「待て健」
身を乗り出して叫ぶ健太郎を、藤原が制した。
「よお見てみい、目が死んどる」
「な、直美ちゃん……」
「彼女はもう、僕の忠実な下僕です。彼女の能力は素晴らしい物です。石像にしてしまうには余りにも惜しい、そう思いましてね。彼女にはその姿のまま、僕の番犬になってもらったんです。
さあ直美さん! まずは健太郎さんを殺して下さい!」
その声に、直美の肩がピクリと動いた。
そしてゆっくり健太郎を見据えると、一気に突進してきた。
「うおおおおおおおおおおおっ!」
防御する間もなかった。
直美の肘が、健太郎の顔面を捉えた。
「ぶっ……!」
健太郎が血を吹く。
頬骨が砕け鼻が折れた。
続いて蹴りがあばらが砕く。
リミッターの外れた直美の一発一発が、健太郎の肉体を破壊していった。
「な、直美ちゃん……頼むから、お願いやから正気に戻ってくれや!」
健太郎が叫ぶ。
しかし直美の攻撃は止まらない。
健太郎が右ストレートを放つがあっさり掴まれ、足を払われた。
「ぐっ……直美ちゃん、勘弁してくれやっ!」
馬乗りになろうとした直美に、ショットガンを向けた健太郎が叫んだ。
ボンッ!
ショットガンが火を噴く。
その瞬間、直美の左手が素早く動いた。
「げっ……ん、んなアホな……」
ニタリと笑った直美が手を広げると、手のひらから散弾がボロボロと落ちた。
「や……やっぱし直美ちゃんは半端な人間とちゃう……」
健太郎が仰向けのまま後退る。
直美は立ち上がり、ゆっくりと間合いを詰めてくる。
「さて……」
二人の戦いを見ていた雄介が、藤原に視線を移した。
「あなたのお相手は僕ですよ、藤原君……あなたは僕の中に残る最後の人間性です……僕はあなたを殺す事で、人間を超えます……」
雄介がゆっくりとレースを取った。藤原が慌てて安眠マスクをする。
「じわじわと……なぶり殺してやるっ!」
雄介が目を見開いた。
すると、視線の先にあった物が粉々に砕けた。
「くっ……こ、こんガキ……!」
藤原が発砲する。しかし目が見えない為、あさっての方向に弾が飛んでいく。
「ふ……ふははははははははっ!」
雄介が流れる涙を拭いもせず、高らかに笑う。
雄介の目が妖しく光った。
すると床に散乱していた無数のコードが、まるで生きている様に動き出し、床はまるでウオーターベッドのように波打った。
足を取られて転倒した藤原に、コードが襲い掛かる。
「くっ……」
藤原がグロックを捨て、腰に差していたダブルエッヂのナイフを抜き、当たり構わず振り回して抵抗する。
その藤原に向かい、雄介の鋭い視線が襲いかかる。
「ふんっ!」
「ぐっ……」
藤原の左肩が血にまみれた。藤原が吠える。
「ええ加減にさらせよこのクソダコ!」
ボンッ!
銃声が響いた。
「ぐえっ!」
撃った一発に、藤原が確かな手応えを感じた。
そして同時に聞こえたうめき声に、藤原がニタリと笑った。
「当たったか……コツがつかめてきたぞ!」
「違う!」
健太郎の声が響いた。
「今お前が撃った弾は、俺の脚に当たったんじゃこんボケッ!」
「何、健に当たったんかい」
「ふはははははははっ!」
雄介の嘲笑が部屋中に響いた。
* * *
一方その健太郎は、直美のサンドバッグと化していた。
コードによって両手の自由が奪われた健太郎は、ただひたすらに殴られ続けていた。
意識が朦朧としてきた健太郎。
その彼が、最後の力を振り絞り、拳を握り締めて吠えた。
「ぐおおおおおおおおおっ!」
コードがぶちぶちとちぎれる。
何とか腕の自由を取り戻した健太郎は、ポケットから取り出したジッポを手に、藤原に向って大声で叫んだ。
「藤原っ! 涼子ちゃんを頼むぞっ! 絶対幸せにしてくれやっ!」
そう言って直美にしがみつく。
「頼むぞっ! お前の言う通り、会社までぶっ飛ばしたったんやからなっ!」
直美のエルボーが容赦なく健太郎の肩に炸裂する。鎖骨が砕ける。
「う……うおおおおおおおおっ!」
健太郎が直美にしがみついたまま、窓ガラスに向って突進した。
「あ……」
窓ガラスが粉々に砕け、健太郎と直美が13階から飛んだ。
「なぁ直美ちゃん……あんたはほんまに、ええ女やったのぉ……」
そう言うとジッポで、腹に巻かれたダイナマイトの導火線に点火した。
「直美ちゃん……あの世でも太腿、さすったるさかいにな……」
ドゴオオオオオオオオオオオッ!
半年後。戦いは終わった。数百万の犠牲を払った大阪に、少しずつ活気が戻りつつあった。事件の真相は当然、誰にも分からない。全てを理解しているのは、藤原と涼子だけ。そして二人が、それを口外する事はなかった。* * *徘徊していた数百万にも及ぶ石像たちは皆、元の姿に戻っていた。しかし坂口の言っていた、「首謀者を倒せば、呪いが解けて皆が助かる」と言う言葉は、残酷な答えとなって返っていた。確かに元の姿に戻りはしたが、脳味噌を排出した人々が再び蘇生する事はない。市内は数百万人の死体の山、ゴーストタウンと化していた。学者たちは頭を悩ませ、連日この惨劇を巡っての議論が続いた。だが誰一人として、答えにたどり着くものはいなかった。藤原は思っていた。(呪いからは解き放たれた……魂っちゅうもんがあるんやったら、みんな、安らかな眠りについた筈や……そうや、絶対そうや……)* * *雲ひとつない透き通る青空を、ベンチに座って見つめている藤原と涼子。藤原が涼子の頭を優しく撫でた。「お兄ちゃん、屁たれにだけはなりたくないね」涼
爆発が起こった。衝撃で部屋が揺れる。「なるほど……健太郎さんにしては、なかなか格好いい最後だったようですね、ふはははははははっ!」「くっ……健っ……!」素早くマガジンチェンジを行い、藤原が雄介目掛けて発砲する。その藤原の体を、雄介の鋭い視線が容赦なく切り刻んでいく。* * *その時、爆発音に妖しい眠りから覚めた涼子の視界に、雄介と戦う藤原の姿が映った。「……お……お兄ちゃん……」涼子が体に巻かれたコードを外そうとあがく。幸いにもコードは緩く締められていて、何度か試みている内に外す事が出来た。―涼子の目に、床に転がる鉈が映った。涼子が鉈を手に取り、ゆっくりと立ち上がった。「ふはははははははっ! 藤原君、そろそろお別れの時ですね! 僕を裏切った事、あの世で後悔してください!」涼子が鉈を振りかざし、雄介の後ろに立った。藤原は壁にもたれかかり、諦めきった表情で両腕をだらんと下ろした。「よりによって、屁たれのクソダコに殺られるとはな……」「死ねっ!」その時だった。「やああああああああっ!」
雄介が拳を握り締め、わなわなと肩を震わせた。レースでよく見えないが、泣いている様に見えた。そしてしばらくすると天を仰ぎ、藤原への思いを断ち切る様に笑い出した。「あっはっはっはっ!」虚しい笑い声が、室内に響く。「分かりました……僕には……僕には友達なんかいなかったと言う事ですね……じゃあ僕は何ら遠慮する事なく、この力を持って世界の頂点に登ります……やはり頂点は一人なんですね……まずは健太郎さん、あなたです……あなたには最高の舞台を用意しましょう……直美さんっ!」「何……直美ちゃん、やと……」雄介の声にバスルームの扉が開き、中から直美がゆらりと姿を現した。「直美ちゃん……無事やったんかえっ!」「待て健」身を乗り出して叫ぶ健太郎を、藤原が制した。「よお見てみい、目が死んどる」「な、直美ちゃん……」「彼女はもう、僕の忠実な下僕です。彼女の能力は素晴らしい物です。石像にしてしまうには余りにも惜しい、そう思いましてね。彼女にはその姿のまま、僕の番犬になってもらったんです。さあ直美さん! まずは健太郎さんを殺して下さい!」その声に、直美の肩がピクリと動いた。&nbs
10分後。「ええ加減にさらさんかえこのボケッ!」健太郎が藤原の後頭部を張り倒した。「ごっ……!」衝撃で目から火を出した藤原が、思わずうなる。そして静かに、大きく深呼吸すると手を挙げ、二人に言った。「すまん、ちょっとタイムや……」ポケットから煙草を取り出し、くわえて火をつける。「ふううううぅっ……」白い息を吐き、眉間に皺を寄せ、天を仰ぐ。「……よし、もう大丈夫や……いわちゃき、いや、岩崎雄介やな、分かった……」煙草を床に捨て、踏み消した。「……そやけど、岩崎雄介……そんなやつ、俺知らんぞ。訳の分からん事ぬかしやがって……それも人の事、馴れ馴れしぃ呼びくさって」「正気に戻ったかえ。そやけどちょっと待てや、その話は後や。おえ屁たれ! 先に俺が質問するっ! お前がどないして、そんな訳の分からん能力を得たんか、まずはそっからや! さあ、答えたらんかえっ!」健太郎が雄介にショットガンを向けて吠えた。健太郎の問いに、思考が停止していた雄介もようやく我に帰った。「……い、いいでしょう&
銃を構えた藤原が、部屋に足を踏み入れたその時だった。「藤原、目えつむれっ! やっぱしやつはゴーゴンの力を持っとった! 顔見たら石にされてまうぞっ!」健太郎が大声で叫んだ。「……分かった」藤原が静かにうなずき目をつむり、安眠マスクをしようとした。その時だった。「藤原君! 心配しなくていいよ! 君に危害を加える様な事は絶対にしない! する訳ないじゃない! さあ、目を開けて!」雄介の狂喜する声が響いた。「何を! 騙されるかえっ!」「……大丈夫、僕は顔にレースをかけます。そうすれば石になる事はありません。健太郎さんも大丈夫ですよ、マスクを取ってください」藤原が恐る恐る、ゆっくりと目を開けた。すると雄介の言う通り、彼は顔に黒いレースをかけていた。頭にはシュルシュルと蛇が動いているのが見える。「おい健、大丈夫や。お前も目ぇ開けろ」藤原の声に、健太郎も安眠マスクをゆっくり外した。「……」藤原には、所狭しと張られている自分の写真、散乱しているコードや倒れている涼子の姿は見えなかった。彼の目に映ったもの。それはその場に転がっている、坂口の無残な生首だった。「坂口さんも……やられたんか……」「お
13階でドアが開いた。ショットガンを突き出しながら、健太郎が素早く左右に目を這わせた。坂口は十字架を天高く掲げ、健太郎に続く。その時、またあの声が聞こえてきた。「心配ありませんよ……ここに石像はいません……いるのは僕だけです……」「くっ……こんガキ、とことん挑発してけつかる……まあええ、行ったろやないかえっ!」健太郎が吠え、大股で藤原の部屋に向かった。声の主の言う通り、石像に遭遇する事無く、二人は藤原の部屋の前に立った。健太郎と坂口が顔を見合わせ、互いにうなずく。その時、玄関のドアが静かに開いた。「坂口さん、行きまっせ!」「分かった!」二人が同時に足を踏み入れる。「な……」健太郎が我が目を疑う。そこは既に、健太郎が知る藤原の家ではなくなっていた。バスルーム以外の壁が全てなくなっており、3LDKの部屋が大きな一室になっていた。そして至る所に、藤原の写真が所狭しと貼られていた。「な……なんじゃこの部屋は……藤原、藤原だらけやないか……あいつ、こないナルシストやったんかいな&hellip